南の島の馬に跨り、消えた久米島の集落へ
乗馬体験やホーストレッキングツアーは数あるが
海岸を越え、森を掻き分け、失われた集落を探検するツアーは、
日本広しと言えど、久米島馬牧場が開催する「森に消えた集落探検」ツアーぐらいだろう。
しかも、跨る馬は沖縄育ちの在来馬だけではなく、
与那国馬、トカラ馬、御崎馬(系雑種)と天然記念物クラスである。
人懐っこい牧場の犬たちと戯れながら廻るツアーの料金は16200円(税込)。
2時間でこの内容、この価格はリーズナブルと言えるだろう。※2017年2月現在
今回は、消えた集落を目指した冒険譚について語ろう。

森に消えた集落の探検ルート
1.森に消えた集落に挑む探検ツアー
久米島は沖縄本島の西方100kmの沖に浮かぶ離島で、沖縄諸島の中で最も西に位置する島だ。
那覇からフェリーで3時間20分、1日に2便が運航している。
目指す消えた久米島の集落とは、久米島の北海岸、黒石ムイと比屋定バンタの間、
「阿嘉のヒゲ水」の崖下に存在した「下阿嘉」という集落だ。
ツアーの出発地点は、タイドプールにできた自然の水族館、比屋定の「熱帯魚の家」だ。
ここで、犬と戯れながら乗馬の基本を習い、集落に向けて出発する。
跨る馬は、ポニーに分類される小型の馬で気性も穏やか、乗馬初心者でも全く問題はない。

2.集落跡までの道程
海岸沿いの道路を南西方向へと進み、比屋定バンタ下の車エビ養殖場を抜けると、
道は背丈を超える草地に変わる。
ハブが生息する久米島において、徒歩で通るのは無謀なこの草地も馬上ならば怖くはない。
草原を抜けた後は、旧集落が眠る「阿嘉のヒゲ水」の崖下まで坂道を登っていく。
車は通行できず、徒歩はおろか騎乗でもハードなこの道程、
かつての集落民の労苦が偲ばれる。

3.森に飲み込まれた旧下阿嘉集落
熱帯魚の家から40分、森に飲み込まれた旧下阿嘉集落に到着。
1963年に台風被害のため全集落民が崖上の地へと移住し無人となった集落は、
深い森の奥にひっそりと眠っていた。
集落跡に残るコンクリートの建築物は住居跡ではなく、移住後に建てられた祖先神を祀る御嶽だ。
御嶽の他には、石垣やフール(豚小屋兼トイレ)の跡が残るぐらいで他には何もない。
困難なアクセス、電気はおろか上下水道もないこの地に
55年前まで人が住んでいたということは驚異的だ。

4.馬上の海岸
帰路は往路のルートと違って海岸を進む。
これまでの閉塞した風景と変わって視界は開き、北海岸の素晴らしい光景が眼前に広がる。
ここでは開放感に浸りながら海岸を気持ち良く乗馬できる。
おもむろに振り返ると「阿嘉のヒゲ水」が天空に吹き上がるのが見える。
あの「阿嘉のヒゲ水」の崖下が、先ほどまでいた集落跡だ。
とても、人が住める場所とは思えない。

5.1馬力の全力疾走
出発地点の「熱帯魚の家」に戻ってもツアーはまだ終わりではない。
最後にツアースタッフが、南の島の馬の実力、1馬力の全力疾走を披露してくれるのだ。
海岸手前のロングストレートを全力で駆け出し、
目の前を、疾風となって通り過ぎてゆく褐色の肉体は迫力満点だ。
トップスピードは40km/hくらいだそうだが、生で見るとそれ以上のスピードに感じる。

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